現場写真の管理ミスが会社を潰す
——35年の経験から見えたリスクの本質
「部下に任せているから大丈夫」「外注先がやってくれている」——そう思っている管理職の方こそ、この記事を読んでいただきたい。
私は23歳から現場監督として35年以上、建設現場に携わってきました。その経験の中で痛感しているのは、写真管理のずさんさが、じわじわと会社の信用と安全を蝕むということです。
現場で起きていたこと
最近、こんな出来事がありました。写真管理を任せた部下が、外注先に作業を依頼していました。ところが締め切りを過ぎても納品されない。理由を聞くと「外注先がまだ終わっていないので」の一言。
問題はそこだけではありませんでした。確認してみると——
- 撮影すべき写真がそもそも撮られていない
- 撮影された写真も間違った形で整理・保管されている
- 本人はその状態を把握していない
- 指摘しても訂正しようとしない
これは単なる「整理が雑」という話ではありません。現場の記録として、まったく機能していない状態です。
なぜ構造スリット・スリーブの写真が重要なのか
今回特に問題だったのが、構造スリットとスリーブの写真です。この2つは目的がまったく異なり、それぞれ別の重大なリスクを抱えています。
| 種別 | 位置 | 目的 |
|---|---|---|
| 垂直スリット | 壁端部(柱との取合い部) | 水平力による壁の拘束を解放し、柱の変形能力を確保 |
| 水平スリット | 壁上端部・下端部(スラブ・梁との取合い部) | 上下スラブからの拘束を解放し、独立した変形挙動を確保 |
※ JASS 5(鉄筋コンクリート工事)および構造設計指針に基づく概念図
| 項目 | 規定内容(概要) |
|---|---|
| スリーブ径 | 壁厚の1/3以下、かつ隣接スリーブとの間隔は径の3倍以上(JASS 5参考) |
| 位置・補強 | 開口補強筋の配置が必要。位置・径・補強状況の写真記録が必須 |
| 記録対象 | 施工前(位置確認)・施工中(補強筋配置)・コンクリート打設前の3段階 |
※ JASS 5(鉄筋コンクリート工事)に基づく概念図
スリットが設計通りに施工されたか、写真記録のみが唯一の証明手段。地震発生時のリスクに直結する。
竣工検査・行政報告・施主説明における施工根拠が失われる。
スリット・スリーブ位置不明のまま工事を行うと構造体や配管・配線を損傷する恐れ。
今回の現場では、事業主(施主)から「必ず記録しておいてほしい」と特別に要望があった箇所でした。それが、適切に記録されていなかったのです。
管理職が知るべきリスク
写真管理のずさんさは、将来こんなリスクに直結します。
管理職として問われていること
「部下に任せた」「外注に依頼した」——それは仕事を渡したのであって、責任を渡したわけではありません。
管理職として問われるのは、こういうことです。
- 部下が外注先をきちんと管理できているか確認しているか
- 締め切りや品質のチェック体制が整っているか
- 現場写真の管理ルールが明文化されているか
- 撮影すべき箇所のリストが事前に共有されているか
- 施主の特別要望が現場全員に周知されているか
現場の写真管理は「誰かがやる」ではなく、責任の所在を明確にして、仕組みとして管理することが必要です。
誰一人置き去りにしない——若い技術者の育成について
ここまでリスクの話をしてきましたが、私が一番伝えたいのはこれです。
今回問題になった部下も、最初から「やる気がない」わけではないと思っています。何が求められているのか、なぜそれが大切なのかを、きちんと伝えられていたか。管理する側の自分自身にも問いかけなければなりません。
若い技術者は、叱られて初めて気づくことがあります。でもそれ以上に、「なぜそれが必要なのか」を腑に落ちる形で伝えられたとき、人は本当に動き始めると私は信じています。
- 「なぜ写真を撮るのか」の意味と重要性を言葉で丁寧に伝える
- 最初は一緒に現場に立ち、手本を見せる
- ミスを責めるのではなく、何が足りなかったかを一緒に考える
- 小さな成長を見逃さず、きちんと認める
- 外注任せにせず、自分で確認する習慣を身につけさせる
諦めない。見放さない。一人ひとりの成長を信じて関わり続ける。それが現場を、会社を、そして建設業界全体を強くしていくことだと、35年の経験から確信しています。
写真管理ひとつをとっても、それを丁寧に教えられる現場監督・管理職がいる会社は、必ず強くなります。
35年現場に立ち続けて思うのは、大きな事故やトラブルは、小さな「まあいいか」の積み重ねから生まれるということです。
写真が撮られていない。整理が間違っている。でも誰も直さない。
その「まあいいか」が、いつか会社を揺るがす問題になる。管理職の皆さんには、ぜひ今一度、自社の現場写真管理の体制と、若い技術者への向き合い方を見直していただきたいと思います。


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