単身赴任で京都、大阪、三重、岐阜、そして今の福岡と転々としてきた。
荷物は少なくても、食の記憶は積み上がっていく。各地で食べ歩きながら気づいたことがある。「その土地のラーメン」は、その土地の文化そのものだ。
京都——豚骨醤油に九条ネギどーん
京都ラーメンは独特だ。
豚骨醤油スープの表面に背脂を振りかけたスタイルが定番で、麺が隠れるほど薄切りのチャーシューがたっぷりと盛り付けられる。そして仕上げに九条ねぎがどっさりと乗る。 Japan-culture-lab
この九条ネギが主役級だ。平安時代から栽培されている京の伝統野菜で、柔らかく甘みが強い。その独特のぬめりとシャキシャキした食感が、濃厚なスープに爽やかな清涼感を与える。 Japan-culture-lab
濃いめのスープにネギをどーんと乗せて食べる。これが京都の流儀だ。
ひとつ不思議に思ったことがある。「九条ネギ」というからには京都の九条で作られているはずだ。でも九条といえば今は工業団地が多く、ネギ畑をほとんど見かけない。
調べてみると謎が解けた。九条ねぎは今や京都市南部や久御山町、八幡市を中心に京都府内全域で生産されている。名前の由来は古くから京都市南区の九条辺りで栽培されていたことからつけられたもので、現在の産地は九条に限らないのだ。 NikkeiJa-kyoto
名前は九条でも、畑は府内各地に広がっている。単身赴任で現地に住んでみないと気づかないことだ。
岐阜・三重——ご当地ラーメンの不在
岐阜ではタンメンが有名という話を聞いたが、店の数は多くなかった。三重にいたってはこれというご当地ラーメンがない。
この2県に関しては、ラーメンよりも別のものを食べていた気がする。岐阜の鶏ちゃん、三重の松阪牛——ラーメン以外に魅力が多すぎる土地なのかもしれない。
岐阜の大垣で印象に残っているのが「サンコック」だ。青い看板に虎のマーク——一見、中華料理屋とは思えない外観だ。でも地元の人に愛されているローカルチェーンで、常連客からは「大垣の味仙」と呼ばれ、担々スープ炒飯など個性的なメニューが揃っている。 Locipo
外観で判断してはいけない。その土地に住んでみないと気づかない発見だ。
福岡——博多ラーメンより、うどんと焼き鳥
福岡に来て一番驚いたのはここだ。
「豚骨ラーメンの聖地・博多」というイメージがあった。でも実際に暮らしてみると、福岡市の家庭における外食では、日本そば・うどんの支出額がラーメンを上回っているというデータがある。 Fukuoka Leap Up
さらに街を歩くと、焼き鳥屋の数がラーメン屋より多い。福岡の焼き鳥文化は本物だ。
そして福岡に来て初めて知ったことがある。うどんの発祥地が福岡だということだ。
鎌倉時代の僧・聖一国師が中国からうどんやそばの製法を持ち帰り、博多で広めたといわれている。博多区にある承天寺には「饂飩蕎麦発祥之地」という石碑が建っている。 Crossroad Fukuoka
関西がうどん文化の中心だと思っていた。まさか発祥地が福岡とは。5年住んで初めて知った。
餃子の話——満州が好きな理由
ラーメンの話をしていて、餃子の話も外せない。
個人的には王将・大阪王将よりも「餃子の満州」が好きだ。
理由はシンプルだ。大阪王将は地域特性に合わせた「マイクロマネジメント」を導入しており、メニューの全国統一を廃止している。また餃子の王将も地域ごとに独自メニューや味付けのアレンジを認める方針で、店舗によって味やセットが異なる。 NikkeiHosun-oita
こだわりのある人には魅力かもしれない。でも単身赴任で各地を転々とする人間には、「どこに行っても同じ味」の満州の方が安心できる。「いつもの味」があることは、旅の多い生活には意外と大切なのだ。
地元・東京——八王子ラーメンと大勝軒
各地を転々としながら、やっぱり地元の味が恋しくなる。
私の出身は東京だ。地元のラーメンといえば八王子ラーメンと大勝軒だ。
八王子ラーメンは透き通った醤油ベースのスープに刻み玉ねぎを浮かべた独自のスタイルが特徴で、ラードの香りと玉ねぎの甘みが絶妙に調和する昔ながらの味わいが魅力だ。 Cookpit
刻んだ玉ねぎ——京都の九条ネギどーんと並べると、どちらも「ネギ系」で面白い。でも全然違う料理だ。
そして大勝軒。つけ麺というスタイルを考案した山岸一雄氏が創業した店で、1961年に東池袋で開業した。特製もりそばが人気を博し、日本におけるつけ麺の元祖となった。 1goten
濃厚な魚介スープに太麺をつけて食べる。あのスタイルが全国に広まったのは、大勝軒から始まったと思うと感慨深い。
単身赴任で各地のラーメンを食べ歩くたびに、「やっぱり地元の味はいいな」と思う。
ラーメンは地域の縮図
転々と各地を回ってわかったことがある。
その土地のラーメンを食べれば、その土地の気質がわかる。京都の濃くて華やかな一杯。福岡のあっさりしているのにコクのある豚骨。ラーメンは地域の縮図だ。
単身赴任の醍醐味のひとつは、こうしたローカルな食文化に触れられることだと思っている。
今夜も一杯やりながら、そんなことを考えている。


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