ある歌手の言葉が、20代の私を支えた

20代の頃、一曲の歌に救われた。

ある歌手が母親への思いを歌ったフォークソングだ。

お母さんが息子に語りかける言葉で有名なその曲。その中に、今では絶対に放送できないであろうセリフが出てくる。

働いて、働いて、働き抜いて——遊びたいとか、休みたいとか、そんなことを一度でも思ったら、その時は〇ね。それが人間ぞ。それが男ぞ。

今の時代にこれを言ったら大問題だ。でも20代の私には、この言葉が刺さった。

盆と正月以外は現場——あの頃の自分

20代の頃、盆と正月以外はほとんど休まなかった。

毎日先輩と現場で肩を合わせた。「舎弟」と呼ばれていた。怒鳴られた。やり直しをさせられた。それでも現場に出続けた。

遊びたいとか、休みたいとか——そういう気持ちがなかったわけじゃない。でもあの言葉が頭の中で響いていた。

「その時は〇ね」

今では笑い話だ。でも当時は本気でそう思っていた。休むことへの罪悪感が、自分を現場に向かわせていた。

あの時代だからこそ身についたもの

今振り返ると、あの時代があったから今の自分がある。

毎日先輩の背中を見て仕事を覚えた。失敗して怒鳴られて、また立ち上がった。現場の空気、職人との距離感、仕事の段取り——すべてがあの濃密な20代に叩き込まれた。

今の若手に同じことをしろとは言わない。時代が違う。週休2日が推奨され、残業は制限され、ハラスメントへの意識も変わった。それは正しい変化だと思っている。

光と影——あの時代が生んだ社会現象

でも正直に言わなければならないことがある。

あの時代を生きた私たちの世代が、「24時間戦えますか」というキャッチコピーを生み出した。栄養ドリンクのCMだ。当時はそれが当たり前だった。むしろかっこいいとすら思っていた。

そしてその延長線上に、過労〇という社会現象が起きた。

働いて、働いて、働き抜いて——その言葉を真に受けて、文字通り心身を削って働いた人たちがいた。家族を残して逝ってしまった人たちがいた。

あの文化を作ったのは、間違いなく私たちの世代だ。

週休2日制が推奨され、残業が制限され、働き方改革が進んでいる今の流れは、あの時代への反省から生まれたものだ。それは正しい変化だと思っている。

「遊びたければ〇ね」——あの言葉は、時代の空気を映した言葉だった。良い面もあった。でも行き過ぎた面もあった。それが現実だ。

そういえば最近、ある政治家が就任のあいさつでこう言った。

「ワークライフバランスという言葉を捨てる。働いて、働いて、働いていく」

賛否両論を呼んだ発言だ。時代に逆行しているという批判もあった。でも正直、あの世代の人間として、その言葉の背景にある気持ちはわかる。

ただ、同じ言葉でも、時代によって受け取り方は全然違う。あの頃の「働け」は美徳だった。今の「働け」は時に凶器になる。

その違いを、私たちの世代はもっと自覚しなければならないと思っている。

でも「本気で働く」ことの価値は変わらない

時代は変わった。でも本気で仕事に向き合うことの価値は、変わらないと思っている。

休むことは大切だ。でも「本気で働いた時間」がその人の土台になる。頑張った記憶が、自信になる。乗り越えた経験が、次の困難に立ち向かう力になる。

あの歌手のお母さんが伝えたかったのは、〇という言葉の裏にある「本気で生きろ」というメッセージだったと思っている。

舎弟と呼ばれた日々が、今の私を作った

「舎弟」と呼ばれていた頃の自分を、今は誇りに思っている。

あの頃の先輩たちの顔が今も浮かぶ。怖かったけど、仕事を愛していた人たちだった。現場を誰よりも大切にしていた人たちだった。

その背中を見て育った。だから今もこうして現場に立っている。

今夜も一杯やりながら、そんなことを考えている。

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