単身赴任を始めて5年が経つ。
京都、三重、岐阜、そして今の福岡。最長でも2年。荷物をまとめては新しい街へ。気づけばそれが当たり前になっていた。
毎回リセットされる「生活インフラ」
新しい街に着くたびにやることがある。
床屋を探す。歯医者を探す。眼科、皮膚科、整形外科、マッサージ店——普段の生活に当たり前にあるものを、全部ゼロから探し直す。
これが意外と大変だ。床屋ひとつとっても「この人に任せよう」と思える店を見つけるまで何度かハズレを引く。歯医者は特に慎重になる。前の街でようやく信頼できる先生を見つけたのに、また一からだ。眼科・皮膚科・整形外科も同じ。マッサージ店は当たり外れが大きい。
2年ごとに「かかりつけ」がリセットされる。これが単身赴任の地味に辛いところだ。
郵便物の転送手配もある。忘れると後で面倒なことになる。
そして献血会場を探す。
献血が趣味だ。新しい街に着いたらまず近くの献血ルームを調べる。京都、三重、岐阜、福岡——それぞれの街で通える場所を見つけてきた。
面白いのは、地域によってルールが細かいところで違うことだ。受付の流れ、問診の方法、待合室の雰囲気。全国共通のはずなのに、なんとなく「その土地らしさ」がある。
献血は体が資本だ。健康診断代わりにもなる。そして見知らぬ街で「ここが自分の場所」と感じられる数少ない場所のひとつになっている。
妻は来ない。ペットがいるから
妻には単身赴任先に来てもらったことがほとんどない。
理由はペットだ。猫のレオがいる。レオを置いていけない、という話になる。まあ、それはそれで仕方ない。
おかげで帰省のたびに「帰省手当」が出る。これが副収入のようなものだ。単身赴任の数少ない恩恵のひとつだと思っている。
スーパーの半額シールがモチベーション
一人暮らしの楽しみのひとつが、近くのスーパーの開拓だ。
どの時間帯に半額シールが貼られるか。どの惣菜が美味いか。これを把握するまでが最初のミッションだ。半額の刺身と割引の揚げ物を見つけたときの満足感は、なかなかのものがある。
自然と家飲みの回数が増える。外で飲むより安い。静かだ。芋焼酎の水割りを一人でやりながら、その日のことを考える。これが今の日課になっている。
掃除・洗濯・布団はリース
家事は全部自分でやる。掃除、洗濯、料理。
布団は会社のリース品を使っている。引っ越しのたびに自分の布団を運ぶ必要がない。これは楽だ。
掃除は週末にまとめてやる。一人分の汚れなのでそれほど大変ではない。洗濯は2日に1回。慣れれば苦にならない。5年でそれなりに家事力がついた気がする。
行きつけの店を作ろうとしたら、自分が内弁慶だと知った
単身赴任が長くなると、行きつけの飲み屋を作りたくなる。常連になって、カウンターで話しながら飲む——そういう生活に憧れた。
実際にやってみると、なかなかうまくいかない。
知らない店のドアを開けるのが億劫だ。話しかけられても会話が続かない。自分は人見知りだったのか、と気づいた。
35年間、現場で職人や業者と渡り合ってきた。でもそれは「仕事」という文脈があったからだ。プライベートで初対面の人と打ち解けるのは、また別の話だった。
単身赴任5年目にして、自分が意外と内弁慶だということを知った。
そして最大の課題——潤い
生活インフラは整った。家事もできる。献血会場も見つけた。
でも一つだけ、5年経っても解決していない課題がある。
女性との接点だ。
職場は現場仕事で男性ばかり。行きつけの店を作ろうとしたら自分が内弁慶だとわかった。街に知り合いはいない。
どうやって出会いを作るのか。独身男性なら誰でも考えることだと思うが、単身赴任という環境はそれをさらに難しくする。2年ごとに街が変わるのだから、関係を育てる時間も限られている。
これだけは5年たっても答えが出ていない。
今夜も一杯やりながら、誰かいい方法を知っていたら教えてほしいと思っている。
それでも続けられる理由
孤独だ。寂しいときもある。でも不思議と「もう嫌だ」とはならない。
自由がある。誰にも気を遣わず、好きな時間に好きなことができる。仕事に集中できる。資産運用もできる。65歳からの夢——全国の災害ボランティア——に向けて、着々と準備できている。
単身赴任は不便だ。でもその不便さの中で、自分のことが少しずつわかってくる。
今夜も一杯やりながら、そんなことを考えている。


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