稲盛和夫の方程式を現場に当てはめたら——結果とは何かを改めて考えた

稲盛和夫の言葉に、こんな方程式がある。

人生・仕事の結果 = 考え方 × 熱意 × 能力

この言葉を知ったのは40代前半だった。

読んだ瞬間、「なるほど」と思った。でも頭でわかることと、腑に落ちることは違う。本当の意味で理解できたのは、もっとずっと後のことだと思っている。

「結果」とは何か——現場で問われるもの

ここで言う「結果」は、経過ではない。結果だ。

現場監督に求められる結果を挙げてみる。

  • 予算——会社として成り立つ数字を出せているか
  • 工程——施主との約束を守れているか
  • 品質——竣工後も誇れる建物を作れているか
  • 安全——誰一人けがをさせていないか
  • 環境——地域や自然への配慮ができているか
  • 事業主との関係——信頼を積み上げられているか
  • 近隣との関係——迷惑をかけながらも理解を得られているか
  • 入居者の満足——最終的に使う人が喜んでいるか

これだけある。そのどれも「経過」ではなく「結果」で問われる。

考え方がマイナスになると、すべてが崩れる

この方程式で怖いのは、考え方はマイナス100点からプラス100点まであるということだ。考え方次第で人生や仕事の結果は180度変わってくる。

どんなに能力があっても、どんなに熱意があっても、考え方がマイナスなら結果はマイナスになる。

「どうせ最後は終わる」という考え方で現場に立てば、安全も品質も崩れる。「近隣なんてどうでもいい」という考え方では、信頼は生まれない。「利益さえ出ればいい」という考え方では、入居者の満足は得られない。

考え方ひとつで、現場の結果は変わる。

能力より熱意、熱意より考え方

能力を鼻にかけ努力を怠った人よりは、自分には普通の能力しかないと思って誰よりも努力した人の方が、はるかにすばらしい結果を残すことができる。

これは現場でも同じだ。

図面を完璧に読める監督が、必ずしも良い現場を作るわけではない。職人との関係が築けない、近隣への配慮ができない、施主の気持ちが読めない——そういう監督は、能力があっても結果が出ない。

逆に、普通の能力しかなくても、誠実に、熱意を持って、正しい考え方で現場に向き合う監督は、必ず結果を出す。

私自身の35年間——方程式で振り返る

20代は熱意だけで走った。がむしゃらに現場に出て、ただ必死だった。考え方も能力も未熟だったが、熱意だけは誰にも負けなかった。

30代・40代になると、経験が積み重なり能力が上がってきた。たくさん失敗した。叱られた。指導を受けた。その積み重ねが少しずつ自分を変えてくれた。

そして今、58歳。ようやく考え方が整ってきた気がする。「誰のためにこの建物を作っているのか」「自分はこの現場で何を残せるか」——そういう問いへの答えが、少しずつ腑に落ちてきた。

稲盛和夫が「考え方が最重要だ」と言っていた意味が、35年かけてやっとわかってきた。

35年間、私が大切にしてきたこと

能力は努力で伸ばせる。熱意は自分で燃やせる。でも一番大事なのは考え方だと思っている。

「誰のためにこの建物を作っているのか」「この現場で自分は何を残せるか」——そういう問いを持ち続けることが、正しい考え方につながる。

稲盛和夫の方程式は、経営者のためだけのものではない。現場監督にとっても、若い技術者にとっても、同じくらい大切な言葉だと思っている。

「こんだけ頑張っているのに」——あるエピソード

若い主任が、こんなことを言ったことがある。

「こんだけ頑張っているのに」

怒りをにじませた言葉だった。確かに、残業を重ねていた。慣れない図面や仕様書と必死に格闘していた。その努力は本物だったし、認めている。

でも問題は、その間に何が起きていたかだ。

目に入るものがなくなっていた。耳に入るものもなくなっていた。近視眼的になり、自分の仕事だけを見て、現場全体が見えなくなっていた。職人の動き、近隣の様子、工程全体の流れ——そういうものがすべて視野の外に出ていた。

今その話をしても、わからないだろう。だから何も言わなかった。

その結果、工程が遅れた。関係者に迷惑をかけた。そして誰かがその後始末をしなければならない。

本人は今、何を感じているのだろうか。

「頑張っている」と「結果を出している」は、別のことだ。稲盛和夫の方程式で言えば、熱意はあった。でも考え方が足りなかった。だから結果が出なかった。

若い人たちへ——考え方がマイナスになると何が起きるか

最後に、若い技術者たちに強く伝えたいことがある。

考え方がマイナスになれば、成果はマイナスになる。

どんなに能力があっても、どんなに熱意があっても、考え方がマイナスなら結果は必ずマイナスになる。これが掛け算の怖さだ。

「どうせ最後は終わる」「ばれなければいい」「自分さえよければいい」——そういう考え方が現場に入り込んだとき、何が起きるか。品質が落ちる。安全が崩れる。施主の信頼が失われる。会社に多大な迷惑をかける。関係者全員が傷つく。

一人の考え方が、現場全体を壊すことがある。

だからこそ、考え方を大切にしてほしい。技術は後から身につく。熱意は年とともに変わる。でも考え方は、自分で意識して磨くしかない。

35年間で出会ってきた「本物の技術者」たちは、みんな考え方が正しかった。能力の差ではなかった。考え方の差だった。

今夜も一杯やりながら、そんなことを考えている。

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