職人との人間関係——35年で学んだ、現場がうまくいく「当たり前」のこと

35年間、たくさんの職人と現場で一緒に仕事をしてきた。

怖い人もいた。気難しい人もいた。最初はどう接していいかわからなかった人もいた。でも今振り返ると、うまくいった現場には必ず共通点があった。

上も下もない——同等に接すること

現場監督と職人は、立場が違う。でもだからといって、上下関係で接してはいけない。

相手に敬意を払う。立場関係なく対等に見る。中に入っていく。

「舐められたくない」「下に見られたくない」と身構える監督がいる。でもそれは逆効果だ。こちらが胸襟を開けば、相手も開いてくれる。壁を作るのはいつもこちら側だ。

話さない監督は仕事ができない

これは断言できる。

話さない監督は、基本的に仕事ができない。おしゃべりなくらいでちょうどいい。

職人との会話の中に、現場の情報が詰まっている。「ここの納まりが難しい」「材料がちょっと足りないかも」「次の工程、段取りどうなってる?」——雑談の中にこそ、重要な話が混じっている。

話さなければ、その情報が入ってこない。問題が大きくなってから気づくことになる。

地域によって人柄が違う

長年、各地で仕事をしてきた。東京、中部、大阪、九州——それぞれ職人の気質が違う。

東京はどちらかというとドライだ。中部は真面目で職人気質が強い。大阪は話好きで人情がある。九州は気っぷがいい。

どの地域でも共通しているのは、こちらの姿勢次第で関係が変わるということだ。余裕のない監督には、職人も本音を話さない。相手の質問を真摯に受け止め、小さいことでも丁寧に対応する。それだけで信頼は積み上がっていく。

「ありがとう」があふれる現場は強い

これは本当のことだ。

「ありがとう」があふれる現場は、雰囲気がいい。きれいだ。うまくいく。

今日来てくれてありがとう。この作業やってくれてありがとう。気づいてくれてありがとう。

感謝の言葉はタダだ。でもその積み重ねが、現場の空気を作る。

職人が現場に来てくれる。その当たり前のことが、実はどれだけありがたいことか。人手不足のこの時代、来てくれるだけで「諸天善神だよ、君は」とつい思ってしまう。

大げさではなく、本当にそう思っている。

コミュニケーションは技術だ

天性のものではない。意識して、続けて、少しずつうまくなっていくものだ。

若い現場監督に伝えたいのはこれだけだ。職人と話せ。敬意を持て。感謝を言葉にしろ。

それだけで、現場は変わる。

そしてもう一つ。

仕事を通じて、人格者として成長してほしい。

現場は人間を鍛える場所だ。理不尽なこともある。思い通りにいかないこともある。職人に怒鳴られることもある。施主に頭を下げることもある。天気にも資材にも裏切られる。

でもそのすべてが、人間を大きくする。

現場監督とは、船の船長であり、オーケストラの指揮者でもある。

嵐が来ても船を守る。乗組員を守る。目的地まで連れていく。それが船長の責任だ。

そして指揮者として、タクトを振る。職人、施主、設計、行政——それぞれが異なる楽器を持つ演奏者だ。指揮者のタクトの振り方ひとつで、音色が変わる。楽団全体の姿勢が変わる。勇壮なハーモニーが生まれ、聴衆を魅了する。

逆に指揮者が迷えば、音はバラバラになる。

現場監督の立ち振る舞いが、現場の空気をすべて決める。それだけの影響力と責任を、私たちは持っている。

その重さの中で、少しずつ人格が磨かれていく。技術だけでは船長にも指揮者にもなれない。人としての器が、現場を動かす。

若い技術者たちよ、困難から逃げるな。その困難の中にこそ、本物の成長がある。

今夜も一杯やりながら、そんなことを考えている。

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