〜敬意・誠意・ありがとう〜
私が出会った「ありがとう」という言葉
私が35年間、現場で大切にしてきた言葉があります。以前勤めていた会社の社長から教わったことです。
その社長は、人への感謝を社員教育の根幹としていました。来店されたお客様、毎日現場で働いてくれる職人さん、配達の方、関わる全ての人へ、ありがとうの気持ちをキャンディーに込めて手渡ししていました。
社員としてその取り組みに関わるうちに、いつしか私自身も人に感謝するようになり、「ありがとう」という言葉が自然と出るようになりました。そしてその気持ちを、現場での仕事に生かすようになりました。
近隣の方々への感謝
現場に出るたびに思うことがあります。
近隣住民の方々は、工事という迷惑な状況にもかかわらず、騒音や振動を我慢してくれています。「お互いさま」と言って協力してくれます。時には小さなお子さんと一緒に、大きな重機に目を丸くして見てくれています。
そんな方々に、どうして感謝せずにいられるでしょうか。
感謝は言葉ではなく、行動で示す
「ありがとう」の気持ちは言葉だけでは伝わりません。私が現場で実践していることがあります。
- 週に一度の近隣清掃
- 作業時間の厳守
- 日曜・祝日に作業が必要な時は、音の出ない作業のみ
- その際は事前にお知らせを配布
また、大きな音の出る作業や埃の出る作業には、出来る限りの配慮をするとともに、近隣の方々への事前の説明と周知を徹底しました。
どれも特別なことではありません。相手の立場に立てば、自然と出てくる行動です。
それでもトラブルは起きる。その時の向き合い方
誠意を持って日々接していても、トラブルは起きます。その時に大切なことがあります。近隣対応を専門業者に任せないことです。
新築現場の監督の中には、トラブルを避けようと逃げ腰になり、近隣対応業者に丸投げしてしまうケースが少なくありません。しかしそれでは、近隣の方々との信頼関係は生まれません。
現場監督自身が前に出て、顔を見せて、誠意を持って対応する。それが全ての基本です。
その時の私の行動は決まっています。
- 当日の早い時間に対応する
後回しにしない。相手の不安を長引かせないために、とにかく早く動く。
- 親身にトラブルの内容を受け止める
言い訳をしない。まず相手の話をしっかり聞く。
- まず謝罪する
怒らせてしまったことに対して、誠意を持って謝る。
- できることを模索し、提案し、了解を得て実行する
一方的に決めない。相手と一緒に解決策を考える。
これは特別なスキルではありません。相手をひとりの人間として、敬意を持って向き合う。ただそれだけです。
誠意が生み出すもの
誠意を持って向き合った結果、何が生まれるのでしょうか。
納得してくれます。こちらの状況を理解してくれます。険しかった顔が、優しい顔になります。
そして気づけば、向こうから声をかけてくれるようになります。朝、挨拶してくれるようになります。応援してくれるようになります。
一年ぶりに現場近くで会っても、ニコニコと挨拶してくれます。
これが「ありがとうの連鎖」です。こちらがありがとうの気持ちで接すると、相手もありがとうを返してくれる。
近隣対応とは、トラブルを処理することではありません。人と人との信頼を築くことです。
若い現場監督の皆さんへ
最後に、若い現場監督の皆さんへ伝えたいことがあります。
ここまで近隣対応の話をしてきましたが、これは近隣対応だけに限った話ではありません。職人さん、番頭さん、営業の方、取引先の方、現場に関わる全ての人に言えることです。
そしてまず一番最初に考えてほしいことがあります。
今、目の前に座っている所長や部下と、どう付き合っていくか。
遠くの近隣住民や取引先より先に、毎日顔を合わせる身近な人との関係から始めてみてください。そこから全てが始まります。
人と人との関係は、情報の伝達でも指示命令でもありません。信頼であり、感謝であり、絆です。それが人間のコミュニティの本質です。
そうした温かい関係を、まず自分の身の周りから作ってください。環境が変われば周りも変わります。周りが変われば社会も変わります。それはやがて世界を変革する大きな力になります。
争いごとのない世界、貧困のない世界、差別のない世界。それは遠い理想ではありません。相手を思いやる気持ちが人から人へと伝わっていく、その連鎖の先にあるものだと私は信じています。
一人から二人へ、三人へ、百人へ、万人へ。
現場という小さな世界から、その連鎖を始めてほしいのです。


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