「嘘つき」と言う前に、もう一度相手のことを考えてみよう——現場で起きたこと、そして私自身の反省
現場管理 / 人材育成 / 管理職向け
「嘘つき」と言う前に、
もう一度相手のことを考えてみよう
——現場で起きたこと、そして私自身の反省
現場監督歴35年以上 レオ管理職・現場監督向け
先日、現場でこんな場面があった。36歳の主任が24歳の係員に向かって「嘘つき」と言った。聞いていて、少し胸が痛かった。その言葉はよくないな、と思いながら。
現場で起きたこと
事の発端は、職人への指示をめぐるやり取りだったようだ。
詳細はわからない。でも「嘘つき」という言葉が飛んだ瞬間、話し合いではなく感情のぶつけ合いになった。言われた係員も黙っていない。言い返した。当然だと思う。
「嘘つき」という言葉は、相手の人格を否定する言葉だ。行動や判断を指摘するのではなく、その人そのものを攻撃している。そういう言葉を使った瞬間、指導は終わる。
「褒める」と「叱る」の本質
教育評論家の尾木直樹氏はこう言う。
「褒める」とは「認めること」。「叱る」とは「説明すること」。
なるほど、と思った。「褒める」は単なる「いいね」ではなく、相手の行動や努力を「見ている、認めている」というメッセージだ。「叱る」は感情をぶつけることではなく、「なぜそれがいけないのか」を丁寧に説明することだ。
「叱る」と「怒る」は違う
怒る(感情をぶつける)
叱る(説明する)
「嘘つき」「何やってるんだ」
「なぜそうなったか、一緒に考えよう」
人格を否定する
行動・判断を指摘する
相手が委縮・反発する
相手が理解・納得する
指導が終わる
指導が続く
私自身の反省——かつて「鬼」と呼ばれた
偉そうなことを書いているが、私自身も過去には部下から「鬼」「悪魔」と呼ばれたことがある。
厳しく指導しているつもりだった。でも今思えば、感情をぶつけていただけの場面もあったかもしれない。相手が何を考えているか、なぜそうしたのかを聞く前に、こちらの判断で怒っていたこともあった。
今は違う。怒らない穏やかなおじさんになった——と自分では思っている。
それは歳をとって丸くなっただけではない。35年間、たくさんの若手と向き合い続けた中で、少しずつ気づいてきたことがある。相手を変えたいなら、まず相手のことを理解しようとしなければ、何も変わらない。
言葉はパワハラになる時代
今の時代、言葉は記録される。スマートフォンがある。SNSがある。「嘘つき」の一言が、後になって大きな問題になることもある。
パワハラの定義は「優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要な範囲を超えて相手の就業環境を害するもの」だ。上司が部下に「嘘つき」と言えば、それはパワハラと認定されうる。
「嘘つき」と言う前に、一度立ち止まって考えてほしいこと
相手はなぜそう言ったのか。事実を確認したか。相手の立場で考えてみたか。感情的になっていないか。その言葉を言った後、関係は良くなるか。
言葉を発する前に、ほんの数秒でいい。相手のことを考える時間を持てるかどうか。それだけで、現場の空気は大きく変わる。
競走馬と放牧馬——2人は同じ午年
実はこの2人、同じ午年生まれだ。
36歳の主任は競走馬タイプ。ブランドをつけられ、まっすぐ前だけを見て走る。工程管理も現場管理も立派だ。でも視野が狭い。予算や全体像が見えていない。36歳でそれは、正直、致命的だと思う。
24歳の係員は放牧馬タイプ。自由で、いつでも草を食んでいる。のんびりしているように見えて、実はよく周りを見ている。
面白いことに、2人は互いに足りないものを持っている。
2人が持つ、それぞれの強み
36歳主任(競走馬)
24歳係員(放牧馬)
工程管理・現場管理が立派
周りをよく見ている
前に突き進む力がある
自由な発想・視野が広い
予算・全体像が見えていない
突き進む推進力が足りない
主任の「前に突き進む力」と係員の「周りを見る力」。これが合わされば、2人はもっと強くなれる。
「嘘つき」と言い合っている場合ではない。互いの足りないところを補い合える関係になれたとき、この2人は本物のチームになる。
誰一人、だめな人間なんていない
35年間、本当にたくさんの人と現場で出会ってきた。要領がいい人、不器用な人、口が達者な人、無口な人、突き進む人、立ち止まる人。
でも気づいたことがある。だめな人間なんて、一人もいなかった。
ただ、その人の「使命」がまだ見つかっていなかっただけだ。競走馬には競走馬の使命がある。放牧馬には放牧馬の使命がある。どちらが優れているわけでも、どちらが劣っているわけでもない。
管理職の仕事のひとつは、その人の使命を一緒に見つけることだと思っている。「嘘つき」と切り捨てる前に、その人がどんな場面で輝くのかを考えてみてほしい。
すべての人に使命がある
不器用でも、要領が悪くても、その人にしかできないことが必ずある。それを見つけてあげられる管理職がいる現場は、必ず強くなる。人を育てるとは、その人の使命を引き出すことだと私は思っている。
カウンターから
36歳の主任も、24歳の係員も、どちらも悪い人間ではない。ただ、その瞬間に言葉を選ぶ余裕がなかっただけだと思う。
管理職として、そういう場面が起きたとき、どう間に入れるか。それも現場監督の大事な仕事のひとつだと、改めて思っている。
今夜も一杯やりながら、そんなことを考えている。



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